ゲームソフトに映画の頒布権の概念を持ち込むのは無理

執筆:97年8月中旬


 ゲームソフトメーカーの集まるコンピュータエンターテインメントソフトウェア協会(CESA)は、中古ソフト販売が頒布権の侵害であるとして中古販売禁止の法制化を目指しているが、ゲームソフト販売店で組織するテレビゲームソフトウェア流通協会(ARTS)は、これに反発し、対抗姿勢を強めている(日本工業新聞、97年8月7日付)。

 頒布権とは、著作権者が著作物の複製を譲渡したり、貸与したりする権利をいう。著作権法からそのまま引用すると「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」--となる(促音の「つ」が捨て字でないのは原文通り)。

 CESAの論拠は、ゲームソフトに関する訴訟において、ゲームを映画の著作物とみなして裁いた判例があるので、ゲームは映画の著作物であり、そうなると、著作権法で映画の著作物についてのみ認められている頒布権がゲームに適用されるというものである。

 著作権法では、頒布という行為を前述のように明確に定義しておきながら、映画の著作物についてのみ、著作権者が頒布権を有することを明記している。映画には、配給という制度にしたがって映画フィルムが映画館から映画館へと伝わっていくという独特の商慣習があったため、これを追認したのである。

 たとえば、言語の著作物の一種である文芸作品には、頒布権が明確には存在しない。文芸作品の違法コピーを売っても、違法にならない可能性がある。ただし、違法コピーを作る際に、違法に複製したものがいるはずで、その者は法に違反している(複製権侵害)から、違法コピーだと知っていて売れば連座はまぬがれないだろう。

 映画の場合、映画フィルムを複製しなくても、上映すれば金がとれる。悪質な映画館が、次の映画館に渡すべきフィルムを、映画会社の意に背いて海外に売り飛ばしたりした場合、頒布権が確立していないとすると、著作権法では罰せないことになる(民事上の訴訟にはもちろんなりうる)。なお、著作権法には映画の上映権についても明記してあるので、映画フィルムが違法コピーでないからといって、上映できるというものではない(上映は、映画の著作権者の許諾なしには行えない)。

 ともかく、映画には、著作権者(通常は映画会社)の意に反した映画フィルムの流通が、死活問題になりうるという事情があった。このために、頒布権の存在を明記したのである。

 それでは、ゲームの中古品販売はどうか。これは、古本や中古レコードの販売と同じ考え方で判断すべきだろう。確かに、ゲームの海賊版について、ゲームを映画の著作物とみなして裁いた判例があるが、だからといって、映画の頒布権がそのままゲームに通用するはず、というのは無理がある。映画の頒布権は、配給という制度と不可分だからだ。

 古本や中古レコードの販売についてはどう定められているか。実は、いまのところ原則自由である。頒布には、前述のとおり、有償譲渡、無償譲渡、貸与が含まれる。このうち、貸与権については、著作権者やレコード製作者に権利が属する(すなわち、これらの権利者に無断で行ってはいけない)ことが明記されている(なお、書籍や雑誌の貸与は当分の間、無断でも行えると付則で定めてある)。だから、有償譲渡、無償譲渡は、自由なのである。ただし、中古の販売と(店による)その買い戻しによって、レンタルと同様の結果が得られる行為は、貸与権の侵害となる。


 知〜財権、遅〜在権、恥〜罪権、身〜着けた の目次に戻る
 執筆記事 閲覧室に戻る
 トップに戻る                 _